日本のお土産に選んだ手ぬぐい

明日、チェンが1ヶ月の日本滞在を終えてカンボジアに帰る。チェンを日本に呼んで色々と面倒を見たのは、元同僚のUくん。彼は、同じく元同僚のHくんと一緒に、よくカンボジアに旅行に行っている。アンコールワットに魅せられた彼らは、カンボジアでチェンのガイドのもと数日間、観光する。そう、チェンは日本語の出来る観光ガイドなのだ。


私はカンボジアに行ったこともないし、もちろんチェンに会ったこともない。でも彼らから、アンコールワットの素晴らしさや親切なチェンの話をたくさん聞いていた。チェンが日本に来ているのを知ったのは、退院した頃だったと思う。
神宮のジャイアンツ戦チケットを取っていたが退院したばかりで体力に自信がなく、Uくんに 「チケットをあげるから行っておいで」 とメールすると 「ちょうどチェンが日本に来ているので、一緒に行ってきます」 と返事をもらった。 
チェンは 「野球」 という存在自体をその日に知ったそうで、Uくんがルールを説明しながら楽しんだそうだ。11対7というジャイアンツの負け試合だったが、投手戦よりは楽しめただろう。


先週、Uくんからメールをもらった。 「退院祝いとチケットのお礼に、Hくんやチェンと一緒にご飯を食べに行きましょう」 と。彼らは年下の後輩だが時々、そうやって私をご飯に誘ってくれる。アラフォーのおばちゃんなのにいいのかなぁ、と思うこともあるが、誘ってくれる彼らはとてもカワイイ。ついつい、若者気分で誘いに乗ってしまう。
最初に約束の場所に着いたのは私。その後にH君がスーツ姿で登場。遅れてUくんとチェンが来た。初めて会ったチェンは、Uくんと同じ作業着姿だった。Uくんの家は建設屋をやっていて、うちの会社を辞めたUくんはいま、自分の会社で仕事をしている。
チェンを現場に連れて行き、足場の組み方や様々な現場業務を教えているそうだ。自分の家に泊め、食事や諸々の面倒を全てUくんがみているという。なぜ、そうしようと思ったのかUくんに聞いてみた。


チェンは5人兄弟の長男で、ガイドの仕事で稼いだお金をほぼ全額、両親に送っている。自分は食事を抜いたり、ガイドの商売道具であるバイクを売ったりしながら、両親にお金を送る。ガイドの給料は不安定で、それほど儲からない。ゲストハウスに寝泊りし、家賃を払わない代わりに、ハウスの雑用を手伝っている。両親に家を建ててあげたがお金が足りず、家は未完成のままだという。両親はもちろん、目上の人をとても大切にするカンボジアでは、当たり前のことのようだ。
そんなチェンにUくんは、何とか安定した生活を送れるよう手助けをしたい、と思ったそうだ。自分に出来ることは、と考え、日本で建設関係の技術を教えることで、外国人ばかりがやっているアンコールワットの足場組みをチェンたちカンボジア人ができるようにさせてあげたい、とチェンを呼んだそうだ。今回は1ヶ月。帰国後は電話やメールで宿題を出し、また1年後ぐらいに1ヶ月間、日本に呼ぶ予定らしい。
偉いなぁ、Uくん。幸せだなぁ、チェン。


チェンは1ヶ月も日本に居たので、色んな所に連れて行ってもらったようだ。会ったこともないチェンの好みは知らないし、日本にどれだけ詳しいのかも知らない。そんなチェンに渡したお土産は結局、自分が大好きな手ぬぐい。

顔も分からないチェンには何が合うか分からないので、定番の豆しぼりと手ぬぐい本にした。どちらも濱文様の手ぬぐい。
豆しぼりは所々、 「●」 が 「豆」 という文字になっていて面白い。
手ぬぐい本は、右端を簡単にとじひもで綴じてあり、手ぬぐいをめくると本のように各ページがデザインされている手ぬぐいだ。とじひもを外すと1枚の手ぬぐいになっている。手ぬぐい本シリーズにはたくさんの種類があるが、今回選んだのは 「日本のこと 涼」 。日本らしい、夏を涼しく過ごすためのモノや風景が描かれている。
では、各ページをご紹介。



風鈴



打ち水



浴衣、下駄、うちわ、夕立



夕涼み



蚊取り線香



とじひもを外して広げると、このような絵柄になっている・・・らしい
(写真はイメージイラスト)

帰り際に渡したので、手ぬぐいそのものの用途が分かってもらえたのかどうかは分からないが、笑顔で握手して別れた。
チェンは 「日本は本当に美しい国です」 と言っていた。そして 「でも、日本人は笑顔を返してくれない。カンボジアでは、道ですれ違った時に目があったらお互いに微笑み合うのが普通だが、それが日本ではないのが寂しい」 と言っていた。
チェン、それは東京という大都会だからだよ。日本にだって、ビルのない地域もあるし、道ですれ違う時には必ず挨拶する地域もたくさんあるよ。


1ヶ月の日本滞在で5キロも太って嬉しい、とチェンは笑っていた。
チェンは明日、何を思いながら日本を発つのだろう。日本で何を感じたのだろう。カンボジアに帰って、Uくんに教わったことをどう生かすのだろう。
答えは、カンボジアに行ってチェンに会わなければ、聞くことができない。


濱文様   てぬぐい本シリーズはどのデザインも素敵です
カンボジア政府観光局   一度は行ってみたいアンコールワット