優先席にて

昨日までの急な冷え込みで、腰のヘルニーちゃんが目覚めていた。目覚めるまでは行ってないかな。起きないといけないけど、まだお布団の中にいたくてモゾモゾしている感じだろうか。でも確実に 「あたし、もうすぐ目覚めるよ!」 的な信号を送ってくる。ミリミリッ、ミリミリッと。あー、嫌な感じだ。


そんな今朝の、通勤電車での出来事。
通勤電車といっても、今日は日曜日。電車も空いている。電車が入ってくる直前に聴いていた音楽は、くるりの 『チアノーゼ』 。 「Friday to Sunday 週末はずっと 錆びた心臓が溶けてゆく Sunday to Friday 言葉が死んで 錆びた心臓に穴が開く」 。今日はSundayかぁ。
電車のドアが開くと、優先席が空いていた。腰がこんなだから座ってもいいよね?と、優先席の、いちばんドアに近い席に着いた。優先席では携帯電話の使用は禁止されているので、どこを見るともなくボーっとしていると、すぐ隣駅に着いた。ドアが開くと、杖をついたおばあちゃんが乗ってきた。
腰、痛いんだけどなぁ。お隣でスマホをいじっているお兄ちゃん、おばあちゃんに気付いているのかなぁ。その隣の、同じくスマホをいじっている金髪のお姉ちゃん、立つ気配はないよねぇ。なんて、悪魔な思考なんだ。ダメダメ!



席を立って、おばあちゃんに譲った。おばあちゃんは私の顔も見ることもなく、そこに座った。まぁね、ここはお年寄りや体の不自由な方のための席だからね。でも、お互いに会釈をすれば、もっと気持ち良く譲ったり譲られたりできるのになぁ。。。
いつも席を譲ったときは、その席から見えない位置まで車両の中を移動することにしている。目の前に立っていられたら、譲られた人も気持ちがイイものではないと思うし、 「座りたいのに」 みたいなビームを出していると思われたら嫌だし。
でも今日は腰にヘルニーちゃんがいる。揺れる車両の中でバランスを取る自信は無い。仕方なく、そのおばあちゃんの前に立っていることにした。ヘルニーちゃん、お願いだからまだ目覚めないで。吊り革に掴まり、目を閉じて、そればかり考えていた。


すると、数駅過ぎたところで急に、下ろしていた方の腕をギュッと掴まれた。 「何!?」 と思って目を開けると、席を譲ったおばあちゃんが私の腕を掴みながら 「私、次で降りるからね」 と言った。今度はちゃんと、私の目を見て。笑顔で 「大丈夫ですよー」 と返すと、おばあちゃんはまた、下を向いて目をつぶった。
ほら、ほらね、席を譲ってもらった後に目の前に立たれていると、座っている方も気が引けて仕方が無いんだよ。あー、おばあちゃん、ごめんなさい。そういうつもりで、ココに立っているんじゃないんだよ、私。目をつぶっていたけど、眠いわけじゃないんだよ。本当に、ごめんなさい。


次の駅に着くと、おばあちゃんは何事も無かったようにスッと席を立ち、私に軽く会釈をした。私は 「お気を付けて」 と言った。笑顔が上手に作れなかった。あー、何だか心がモヤモヤ。

 
おばあちゃんが座っていた席に再び座り、乗り換え駅に到着。改札を出て、地下鉄に乗り換える前にお母さんに電話をした。明日、田舎から荷物を送ってもらうことになっているので、宅配便の配達時間を指定してもらうために。
用件を伝え、電話を切ろうとしたとき、 「あ、そうそう、さっきまで雨が降っていてもの凄く寒いんだけど、雨が上がって明るくなってきたよ。さっきね、虹が出たの。今日はイイ日になるかもね!いってらっしゃい」 とお母さん。
そっかぁ、虹が出たのかぁ。きっとイイ一日になるね。
さっきの出来事でモヤモヤ霞んだ心も、スッキリ晴れたような気がした。ありがとうね、お母さん。