太陽のリングと人の輪

さぁ、いよいよ当日。朝、カーテンを開けて空を見上げる。曇ってはいるが真っ暗なわけでもなく、少し明るいぐらいだ。いける!大丈夫だ!準備をして玄関ドアをあけると・・・なんと雨。何てこった。でも、1時間後には上がっているかもしれないもんね。傘を差し、空をチラチラ見ながら駅に向かった。

電車に揺られて15分ほどで到着したのは、洗足池。桜の名所ね。この時期に来たことはないなぁ。
いつもの朝の風景なのだろう、ランニングをする人や犬のお散歩の人たちが大きな大きな池の周りにたくさん見える。そして、木々の枝が少なく開けた場所には、金冠日食を見ようと集まった人たちがいっぱい。池を囲むように人が並び、カメラの三脚が並び、曇った空を見上げている。
さぁ、どうしようかなぁ。遮るものがない場所は・・・橋の上だ!写真の真ん中に見える、池を渡る橋に決めた。既に何人かいるけど、池の上ならよく見えるね。


橋の上に着くと、既に太陽はこんなに欠けていた。
ここから暫くは、雲との戦い。じーっと睨みあっては、根負けして切れた雲間に太陽を見つけ、観測用グラスを掛けたり、コンデジで撮ってみたり、携帯電話で撮ってみたりと大忙し。油断をするとまた雲が襲ってきて、暫く睨み合い。その繰り返しだ。
うーん、フィルターを貼ったコンデジでは、このぐらいの写真が限界かなぁ。


あと少しでリングになるのに、なかなか雲が切れない。切れないどころか、黒っぽい雲まで出てきた。少し先は青空なのになぁ。がんばれ!太陽。風よ吹けー!もう、とにかくお願いだから、雲よ切れてくれー!口はしっかり閉じているけど、頭の中は忙しく騒いでいる。子供みたいだ、私。でも、雲が掛かっている太陽も、神秘的でいいなぁ。
隣のおばちゃんが声を掛けてきた。 「見えますか?グラスが買えなかったから、デジカメで木漏れ日を撮ろうと思って」 と。 「見てみますか?」 と観測用グラスを貸すと、嬉しそうに見ていた。良かった、良かった。


「もうすぐ来るよ」 という声があちこちから聞こえて来る。ドキドキが早くなってきた。緊張するよー!
そしてついに、リングになった! 周りから、 「来た、来た!」 と声が上がる。思わず私も 「うわー、すごい!」 と声を出してしまった。雲が邪魔をしているが、確かにリングになっている。何て美しい!鳥肌が立つ。
「うわぁ!」 という声が集まってだんだん大きくなり、どこからともなく拍手が起こった。その場にいたみんなが誘われるように手をたたいて笑顔になった。リングがもたらしてくれた、素敵な空気。見知らぬ人たちとの見えない輪。たまらない。


黒い雲が近付いてきて、せっかくのリングを覆っては切れ、覆っては切れる。
裸眼で見てはダメ!と言われているが、雲が太陽を隠したことで、何とも言えない美しいシルバーリングが見えた。細いシルバーリングだけでなく、雲が薄くなった部分は光が盛り上がり、その筋が伸びている。美しすぎて、ため息しか出ない。
1枚だけ写真を撮って、あとはずっと、自分の目で見ていた。雲の演出、なかなかやるじゃん!


リングが切れるのと同時に、黒い雲が増えてきた。 「充分楽しんだでしょ。もうイイ?」 と雲が言っているようだね。
はい、あっという間だったけど濃く、素敵な時間でした。


きっと今日のネット上には、立派なカメラで撮ったリング写真がたくさんアップされるんだろうなぁ。でもやっぱり、自分の目で見て、頭に中に記録したものがいちばんキレイだろうな。鳥肌が立つほど感動したんだもん、最高だぁ!


ベタだけど、むかし大好きだったドリカムの、金環食が歌詞に出てくる曲 『時間旅行』 。昨日からずっと、頭の中はこの曲が流れっぱなし。
「2012年の金環食」 なんて、ずっとずっと遠い未来だと思ってたなぁ。