海の中の現実と、その未来

この本を知ったのは、27日のWEB岩手日報の記事だった。

宮古湾の生命力撮り続けて 鍵井さんが水中写真集」
世界的に活躍する水中写真家、鍵井靖章さんは宮古市宮古湾を舞台にした写真集 「ダンゴウオ 海の底から見た震災と再生」 を出版した。震災直後の2011年4月から12年12月に100回以上の潜水撮影を行い、震災の傷痕が癒え、少しずつ海の生命がよみがえる姿を丹念に追った。
鍵井さんは震災直後、週刊誌の仕事で宮古湾に潜水。海中に引きずり込まれた生活の痕跡がテーマだったが、宮古港製氷工場前で海底にしがみついている1匹のダンゴウオと出合い、「被災地の海で命の誕生を撮りたい」と継続的な撮影を決意した。
12年1月には、日出島地区で車のホイールから芽生えたワカメを見つけ、再生の兆しを実感。同年6月には浄土ケ浜の岩場で、ダンゴウオの雄が外敵から卵を守り、ふ化する様子を撮影。赤い海藻の上に集まった生後数日の愛らしい稚魚の様子を捉えた。


震災後、宮古の海はどうなっているだろう。ずっと気になっている。帰省した時に眺めた海は、昔と全く変わらず穏やかに見えた。ただこの海の中には、あの時にのみ込んだ人々の生活が沈んでいるんだ、そうも思った。
そして、記事を読んですぐに注文した写真集が今日、届いた。



がれきの町、海の中に沈んだ家、ピアノ、車、扇風機など等。そんな写真から始まる。生命の気配が感じられない海の姿に、言葉を失う。足にワカメが絡んで 「もーっ!」 なんて言いながら泳いでいた海が、海藻がない海に変わっていた。ショックだった。


鍵井さんはそんな海の中に、小さな生命を見付けたそうだ。それが、ダンゴウオ。愛らしい顔をした、親指の先ほどの小さな魚。何かを語りかけているような顔をしたダンゴウオの写真にホッとしたり、鍵井さんの優しいコメントにホロリときたり。


この本で初めて知ったが、もともと三陸の海は、密漁を防ぐためにダイバーたちに開放されていないそうだ。そういえば田舎では、よくテレビで見る装備を着けたダイバーを見たことがないなぁ。密漁にも厳しいもんね。よく遊ぶ海でウニを見付けたとき、親戚のおじちゃんに 「それを獲ったら5万円の罰金だぞ!」 って言われたもんなぁ。
後半に掲載されている、とてもカラフルな、お花畑のような海中写真を見ながら、 「あー、こんなにキレイな世界があるんだ」 と自然と口角が上がった。
5年後、10年後、また鍵井さんが宮古の海に潜る機会があったとしたら、この海はどうなっているんだろう。その先の未来を思い描く人がひとりでも多くありますように、と願わずにはいられない、そんな写真集だ。