思い入れ


映画 『ホットロード』 を観た。
紡木たく作品はあの頃、中学・高校女子たちのバイブルだった。今でも表紙を見ただけで、教室の空気やにおい、窓から射す放課後の西日の、その角度まで容易に脳内再生できる。
春山ではなく、 「ハルヤマ」 を思い出した。あの頃、自分の中で勝手に枝葉をつけ、存在感を増し増しにしたハルヤマを。
映画を観ながら、頭の半分では自分のあの頃も再生される、不思議な体験だった。


映画を観ながら、思い出したことがある。
あの頃、放課後の教室で、せっせと色紙に紡木たくの登場人物の絵を描く女子がいた。
ほとんど目立たず、体がガリガリに細いコで、よく男子たちにからかわれるとムキになって対抗するようなコだった。同じクラスにいても、居るのか居ないのか、女子たちにすらあまり気にされないようなコ。


そのコがある時から、女子のあいだで人気者になった。
紡木たくの漫画とそっくりな絵が描ける、ということがみんなに知れてしまったからだ。きっかけはよく覚えていないが、とにかく彼女がは、紡木たくの絵を真似て描くのが上手かった。
それが有名になり、女子たちは彼女に色紙を渡しては、「○○の××くん描いて!」 とオーダー。クラスの女子、学年の女子、いろんな人から頼まれては断れず、彼女は休み時間もずっと絵を描いていた。彼女にとっては、そうすることがその場所での自分の存在を確かめる術だったのかもしれない。
子供だったんだな、私たち。


大人になってしまった、あの頃の女子たちよ。 「瞬きもせず」 に、 「みんなでホットロードを観よう!」 ね。あれれ?ふたつめは無理があるかぁ。
オフィシャルサイトの原作者コメント 「ホットロードを大切にしてくださったみなさま」 以下、沁みたなぁ。