夜に浮かぶ

夜、仕事帰りの1時間散歩の中盤ぐらいに、講談社の前を通る。いわゆる『音羽』を通って帰っているからだ。文系出身の私には、出版関係は憧れの職業だ。特に講談社は学生の時にダメもとで記念受験をした会社でもある。ほぼ毎日この散歩で通るのだが、ほぼ毎回「いいなぁ、講談社」と立ち止まって建物を眺める。「いいなぁ、出版社」+「いいなぁ、講談社の建物」を引っくるめて「いいなぁ、講談社」となるのだ。
別の業界に就職してかなり経つのだが、今でも憧れである事に変わりはない。


講談社は背の低い重厚な古い建物と、背の高い綺麗な新しいビルとが並んで建っている。私が憧れていたのは古い方の建物だ。いつも立ち止まって眺めるのは、その古い建物。ゴシックな感じと歴史を感じさせる佇まいに自然と足が止まってしまう。


去年、モーニングのイベントで落語会があり、会場がこちらの古い建物だった。好きな落語家さんのイベントだったので楽しみだったが、同じぐらい楽しみだったのが、講談社の中に入れてもらえることだった。
建物の中に入った途端、「お前は鳩かっ!」の状態で首をちょこちょこ動かし、建物内を眺めまくった。入り口・廊下・ELV・ホール・喫煙所ぐらいしか見ることはできなかったが、もう至福の時間!そしていつもの「いいなぁ、講談社」。


昨日も散歩中に講談社前を通った。
いつも眺めている古い建物ではなく、新しい建物の方を見ながら歩を緩めたところ、ビルの入り口前に大きなこぶしの木が2本明るく浮かんでいた。もうすぐ満開のこぶしの花は、入り口付近を照らしているようだった。
「こんなに咲くまで気付かないほど古い建物の方ばかり見ていたんだ」と思ったら可笑しく、「アホだなぁ」とニヤけてしまった。