閉館した小劇場

今日、あるご縁から、すでに閉館している小劇場の内部を見せてもらった。多くの劇団が育て、愛してきた空間だ。この小劇場は廃ビル内にあり、数日後には解体工事が始まるという。


椅子や音響などの設備は全て撤去されていたが、ステージや観客席のひな壇はそのまま残されていた。かつて大勢の人が出入りしていた箱はガラーンとしていて、私たちの靴音だけが響き渡る。過去に1度しか来たことがない私だが、演劇が大好きで、この劇場を愛していた人たちがこの状態を見たら、言葉を失うだろう。
人が集まるために作られたスペースが、誰も訪れることのない空っぽのスペースに変わってしまった姿は、とても切ない。かつて多くの人に愛されていた空間は、もうすぐその形を失ってしまうのだから。


劇場の壁には、ラスト公演の後に書かれたと思われるメッセージがたくさん残っていた。
閉館に対する悲しみ、劇場への感謝の気持ち、ここでの思い出、悲しみを超えた悔しさや怒りもあった。どのメッセージも気持ちをそのままぶつけている。中には 「嫌だ!」 を何度も繰り返す、だだっこのようなメッセージも。自分の力ではどうにもならない現実に、もうその言葉しか出なかったのだろう。そのひとつひとつの文字からあふれる 「気」 に、溺れ沈んでしまいそうになる。
劇場内にあふれている濃く、重く、体に絡みついてくるような空気を作り出していたのは、これらのメッセージと劇場を愛していた人たちの想いなのか。そして私はこの空間に全く受け入れられていない、足を踏み入れることを拒否されている、そう感じた。


いつもなら 「写真を撮ろう」 と思うのだが、昨日は 「ここで写真を撮ってはいけない」 と思った。何となく、この姿は記録に残してはいけないのではないか、と。
この劇場を育てた多くの劇団、その劇団に所属し、今はTVでも活躍している俳優たち、何度も足を運んだ観客。関係者たちは今、この劇場のことをどう思っているのだろう。たまにはココに通った日々を思い出すのだろうか。新しい劇場として再開されたとしたら、思い出の中のそれとは違う空間を、受け入れることができるのだろうか。