長かった一日

私には、心を病んだ友人が何人かいる。
ある人は会社を辞めて引きこもり、ある人は伴侶に 「もうこれ以上、治療費は出せない」 と言われて離婚し、ある人は上司から 「仕事のミスが多い」 と毎日のように注意され、ある人は入院しても全く快復せず、ある人は何時間も電話やメールで話し続ける。
どの人も、私にとって大切な友人。そうなる前に気付いたり相談に乗ってやることができなかっただろうか。私はいつも、気付くのが遅すぎる。


昨日の21時半過ぎ、 「今、時間ある?」 と、そんな友人からの連絡。仕事を終えてヘロヘロながらも家に着いたところだったので 「家に居るから大丈夫だよ」 と返信。それから暫く時間が空いて心配しているところへ、 「今から会いたい」 とのメール。 「もう家だから。明日、待ち合わせは11時だったよね?じゃぁさ、早起きして上野公園でもお散歩しようか」 と返信したところ今度は 「どうしても会いたいから、今からそっちに行く」 とのメール。そこで、 「じゃ、銀座まで出るよ」 と返信し、着替えをして家を出た。オシャレもせず、適当な格好のまま銀座へ。


23時前に有楽町駅の改札を出ると 「Lちゃん!」 と声を掛けられ、無事に会うことができた。終電までは2時間弱。日曜日の銀座は、どの飲食店も閉店時間が早い。 「カラオケボックスで話そうよ」 と言われ結局、朝までボックスにこもった。
食事もあまり取らず、いつも 「眠れない」 と眠剤を飲む友人。2時を過ぎ、 「とにかく、夜のお薬を飲んだら?」 と言った。 「これ、飲んでも全く効かないんだよね」 と言いつつ薬を服用したが、暫くすると眠そうな顔になってきた友人。 今日は、毎晩飲んでいるという強力な頓服眠剤2種類とも、まだ飲んでいない。 「とりあえず、横になったら?」 とソファーに寝かせ、お店からひざ掛けを借りてそれを身体に掛けたところ、少しして寝息が聞こえてきた。


ボックスの中で気持ち良さそうな寝顔を見ながら、今までのいろんなことや、今日話してくれたことを思い返したら、涙が出て止まらなくなった。
この人は、どんなに辛い思いで毎日を過ごしているんだろう。この人の家族は、どんなに心配しているだろう。この人を救うために、私には何ができるんだろう。私は今まで、何をしてあげられたんだろう。何でこの人のために、こんなに私は悩んでいるんだろう。この人はなぜ、何もしてあげらない私なんかを頼ってくるんだろう。
この人の、私の未来はどうなっているんだろう。
なるようにしかならないのは、大人だから充分、分かっている。私はこの人から、たくさんのことを与えてもらったのにな。


2時間ほど寝て、友人は起きた。私は結局、ずっと起きていた。
4時半にお店を出て、動いたばかりの電車に乗って移動し、真っ暗な上野公園を寒さの中、ぶらぶら歩いた。友人の後姿は、以前にも増して痩せて見えた。途中、毎朝5時に設定している携帯電話のアラームが鳴った。
そのあと別の街に移動し、9時までたくさん話をした。重い話も、バカ話も、いっぱいした。この友人、以前のように声を出して笑うことはあまりなく、 「うふふ」 と微笑むだけのことが多くなったなぁ。
また別の街に移動し、お互いの趣味であるクラシックカメラで写真を撮ったり、お店を見てまわったりして、14時前に駅で解散した。そういえば、カラオケボックスで飲んだ数杯の烏龍茶と喫茶店で飲んだコーヒー以外、何も食べていないや。友人はこれから、退職した会社の上司と会うという。
この時点で、前日の朝5時に起きてから33時間が経っていた。イイ歳になってからのオールナイトは正直、キツい!家に帰ると、毎朝5時のタイマーで作動開始しているエアコンが、主人不在のまま頑張っていて、部屋が暖かかった。



いろんなことが起こるなぁ。身も心も、錆びかけてギシギシ言っている。さぁ、私もギシギシに少し油を差さないと、動けないぞ!