被災者の安否を確認中の方々へ

あの大地震から一週間。
被災地にご家族、ご親族、ご友人などがいらっしゃる方々は毎日、安否確認のために必死だと思います。何度も何度も被災地に電話を掛け、メールをし、テレビのニュースに釘付け、食事も睡眠もあまり取らず、パソコンや携帯電話で一日ずっと検索しっ放し。心配で何も手に付かず、悲惨な映像を見ては涙を流し、避難所の様子を見ては涙を流し、とにかく涙を流してばかり。そんな毎日だと思います。



実家が岩手で、宮古や大船渡、釜石に身内や友人たちが居る私が、そうです。
無事です!のメールを受け取っては泣いて喜び、訃報を聞いては泣いて悲しむ。被災地にいる本人あるいは被災地や被災地以外にいる身内や友達を通して、そんなメールが一日に何度も届く、心が乱高下する毎日。
もう辛い、寒い、疲れた、などと思っても、 「被災地にいる人たちはもっと辛いんだ。私の辛さなんて、被災者に比べれば何てことない!」 と自分を奮い立たせる毎日。
避難者の一覧をパソコンの画面に表示し、膨大な数の中から探している人がいないかどうか、朝方まで探す毎日。
ご飯を食べるとき、お風呂に入るとき、お布団に入るとき、買い物をするとき、電気を点けるとき、水を出すとき、お湯を沸かすためにガスを点火するとき、とにかく何をするときでも被災者の方々に申し訳なくて、恵まれた環境に居る自分が嫌になり、切ない気持ちに襲われる毎日。
いつ連絡が来てもいいように、携帯電話を離さない毎日。
その着信に、心臓がドキドキする毎日。
とにかく 「被災地の人たちはもっともっと大変な状況下で頑張っているんだ!」 という気持ちが、今の自分を支えています。だから辛くても津波の映像を見て、被災地のみなさんのインタビューを見て、パソコンを開いて、なるべく情報をたくさん得ようとしています。



今、被災地にいる無事だった知り合いたちと私を繋ぐのは、パソコンや携帯電話だけです。いつ、被災地から連絡が入ってもいいように、携帯電話を文字通り肌身離さず持っています。固定電話も携帯電話も不通の被災地。かろうじて場所によって電波が入る場所があるようで、ときどき届くメールのお蔭で、被災地の様子と無事を知ることができています。
昨日のお昼休み、そんな携帯電話が見当たらなくなってしまいました。すぐに探してみたけど、無い。無言のままワサワサと探したけど、やっぱり無い。固定電話から携帯電話にダイヤルしてみたけど、マナーモードで音がしないしブルブル音も聞こえません。焦って、心臓がバクバクしてきました。バクバクに耐えられず、ついに向かいのデスクにいた同僚に声を掛けました。
同僚も一緒に探してくれ、私のデスクの端の方、柔らかい布の上に置かれた携帯電話を見付けてくれました。ちょっと見れば分かる場所なのに、焦っている私の目には入りませんでした。とにかくホッとしました。



すぐに携帯電話の画面を覗き、会社の固定電話から何度も掛けて残った着信記録を消そうとしました。
ところが、右手の親指が震えて、操作が出来ないのです。何度も数字を押そうとするのですが、とにかく指の震えが止まりません。しかも、自分が意識して動かしても絶対に出来ないほどの、もの凄い小刻みの震えです。
怖くなって携帯電話を置き、ペンを持って文字を書いてみました。きちんと書くことができました。そこでまた携帯電話を持ち、操作しようとしましたが、やっぱり親指が同じように震えて全く操作ができません。お弁当を食べている途中だったので、今度はフォークを持ってみました。問題なく使えます。そこでまた、携帯電話を操作してみました。やっぱり震えが起こり、操作ができませんでした。
自分が怖くなりました。私は体も心もおかしくなっている、ということに初めて気付きました。



今の状況では、携帯電話が、被災地と自分を繋ぐ唯一の通信手段です。それが無くなることへの恐怖が、それほど大きいものだったとは。恐ろしくなりました。
きっと、必死に安否確認をなさっているみなさんは、気が張っているので気付いていないと思いますが、体も心もかなり疲れているはずです。私と同じように 「被災地にいる人たちは、もっと辛いんだから」 と思っているでしょう。



何人か、被災地にいる人たちと電話で話すことができて、分かったことがあります。
被災地にいる無事だった人たちはみんな、生きることに必死です。とにかく明日の食べ物をどうするか、夜の暖をどう取るか、水はどこに行けば手に入るか、そういうことで頭がいっぱいだと言っていました。知り合いの安否は気になるが今はそれどころではない、と言っていました。心配しているだろうとは思ったけど、連絡する手段がないし、それどころではなかった、とも言っていました。
被災者であっても体が動く人たちは、困っている人たちのために行動しています。正に不眠不休の勢いで動いています。繋がらない電話を手にしているよりも、生きるために、周りの人たちを助けるために体を動かしています。
安否確認ができず心配でしょうが、いくら電話番号をリダイヤルをしても、いま被災地への電話は繋がりません。避難者の一覧を見ても、今日現在で38万6000人と言われている避難者の中の、ほんの一部しか掲載されていません。掲載されている人の方が、圧倒的に少ないのです。



是非、一日でも半日でもいいから、体と心を休ませてください。自分では気付いていなくても、気付かないふりをしていても、体や心は限界まで疲れているはずです。布団に入る自分を責めず、布団に入ってください。温かいものを口にする自分を責めず、口にしてください。
探していらっしゃる方の無事が確認できたとき、そして交通が整備されて被災地へ行くことが可能になったとき、そのときに備えて体調を整えてください。このままでは倒れてしまいます。
もちろん、被災地の方々は大変な毎日を過ごしていらっしゃいます。冷たいようですが、被災地と、被災地ではない場所で暮らしている私たちとは環境が全く違う、それが現実なのです。体を休めても、誰もあなたを責めません。自分が自分を責めるかもしれませんが、自分の心配もしてください。
どうか、みなさんが探していらっしゃる方がご無事でありますように。そしてどうか、元気で会える日が一日も早く来ますように。



●IBC 岩手放送 【IBC安否情報】  http://saigai.ibc.co.jp/anpi/

●テレビ岩手 【被災・安否情報】  http://www.tvi.jp/saigai/

岩手日報 【避難所にいる方々の名簿】  http://www.iwate-np.co.jp/hinanjo/list.html