お誕生日おめでとう!の日のこと


今日は、お兄ちゃんの誕生日。
大震災のその時から、今までとは全く違う生活になって、とても大変そうだ。養護学校(支援学校)の教員をしているお兄ちゃん。生徒たちに卒業式をやってあげられるのか、いつになったら新学期を始められるのか、これから自分たち家族の生活はどうなるのか、などと震災後、一度だけの電話で言っていた。
でも、やっぱりお誕生日は 「おめでとう!」 だね。安否が分からなかったあの三日間を思い出すと、こうやっておめでとう!と言えることが、どれだけ幸せなことか。
家族全員が無事だと分かったし、大変だと思うから電話もメールも殆どしないけど、いつも気に掛けて心配しているよ。落ち着いたらゆっくり話そうね。



昨日の朝、お母さんにメールをした。 「明日はお兄ちゃんの誕生日だね。それどころじゃないだろうけどね」 と。すると、昼過ぎに返信があった。 「さっきね、突然、お兄ちゃん家族がうちに来たんだよ!一泊しかできないらしいけど、みんな元気だよ。お兄ちゃんとMちゃん(お義姉さん)は足りない物を買いに行ったから、私とじいちゃんは孫たちと一緒に買い物に行ってきます!」 と。メールから、お母さんの喜びようが伝わる。数日前、お義姉さんからメールがあった。お兄ちゃんとは別の養護学校で働いているお義姉さん。 「やっと昨日、卒業式ができました。亡くなった生徒もいるので、いつもとは違った卒業式でした」 と。そして、 「そろそろ一度、おじいちゃんとおばあちゃんに会いに行こうと思います」 とあった。そのそろそろが、昨日だったようだ。



お母さんと同じぐらい嬉しかった私。仕事を少し抜け出し、すぐに電話をしてみた。電話に出たお母さん、すぐに上のお姉ちゃんと電話を代わってくれた。大震災以来、初めて聞く姪っ子の声。いつもの調子で笑いながら話すお姉ちゃんより、私の方が声が高かったかもしれない。
さすがは中学一年生。大震災のその瞬間から今までのことを、順序立ててしっかり教えてくれた。防災警報が鳴り響き、とにかく怖い思いをしたこと、大船渡市の海沿いの町は本当に大変な状態になっていること、避難所でお手伝いをしていること、ガソリンが大震災直後より手に入り易くなったこと、自分の中学校が遺体安置所になっていること、10日ほど前にやっと水道が通ったこと、新学期が始まる目処が立っていないこと、等など。私の聞くことにしっかりと答えてくれる。落ち着いていて安心した。
同級生で何人か、避難のために東京や県内の別の町に引っ越してしまう友達がいて、寂しいと言っていた。でも、私を安心させようと思ったのか、 「頑張るよ!」 と何度も言っていた。



夕方、もう一度、田舎に電話をした。今度は、下のチビと話すためだ。電話をすると、いつものように元気に電話に出てくれた。そしていつものように、いっぱい話をしてくれた。
小学3年生のチビは地震の時、教室のワックス掛けを終え、帰ろうとランドセルを背負ったところだったそうだ。大きな地震に、すぐに机の下に隠れるように!と言われて潜ったチビ。ランドセルを背負ったまま潜ったので体がキツく、一度立ち上がってランドセルを降ろしてまた、机に潜ったそうだ。机は揺れ、物はたくさん落ち、とにかく怖かったそうだ。それから全員、荷物を置いて中履きのまま校庭に出て整列。その時すでに、津波の第一波は町を襲っていたそうだ。



いつもDSばかりやっているので、私によく 「ピコピコちゃん」 と呼ばれているチビに聞いてみた。 「今日も、DS持ってきたの?」 と。すると 「ううん、持ってきてない。よく分かんないんだけど、地震の後からDSをやりたいと思わないんだ。一回もやってないんだよ」 と言う。 「そっかぁ、炊き出しの手伝いとか、お片付けとか、忙しかったんだもんね」 と私が言うと 「ううん、学校は休みだし、時間はいっぱいあるんだけど、やる気が全然しないの」 と静かに言う。そうか。。。
話をしている中で、電話なのに急にヒソヒソ声で話し始めたチビ。 「あのね、はとこの子のお父さんね、車が津波に流されたんだって」 「そうなの?お父さんは大丈夫だったの?」 「うん、でも車は流されたんだって」 。これ以外でも、学校の楽しい話は元気に話すのだが、大震災の被害の話になると、声を潜めて話す。こういう話は大きな声で言ってはいけない、と子供心に思っているのだろう。あー。。。



今朝の通勤時間、地下鉄の中でお母さんの携帯電話からの着信があった。地下鉄の中では出られなかったので、地上に出てから電話をしてみた。お母さんではなく、上のお姉ちゃんが出た。
この子は、とても心が繊細で感受性の強い子だ。年長さんの時にお義姉さんが亡くなってから、更にそれが強くなった。下の子が新しいお義姉さんに上手に甘えるのに対し、お姉ちゃんはそれがしたくても出来ずに、ひとりで別の部屋でしくしく泣いている。 「私も甘えたいのに、いつも妹がママちゃんを独占するの」 と。このお姉ちゃんは私には何でも話してくれるので、それがよく分かっている私のお母さんに 「Lちゃんに電話してみたら?」 と言われたらしい。




昨日もたくさん話した私たち。 「今日は何時に帰るの?」 とか、 「学校が早く始まるといいね」 とか、 「困っているけど周りの人に言えなかったら、私に電話するんだよ」 とか、何でもないことを暫く話した。 「もう、お仕事行かないといけないよね?」 と電話を終わらせようとしたのは、お姉ちゃんの方だった。気ぃ使っちゃってぇ、と思ったが、そこで電話を終わらせた。
この子たちがまた、元気に笑って学校に通える日が、早く来ますように。。。