お墓参り

暖かく、風も殆ど無く、最高のお花見日和。珍しく2週続けての日曜日休み。人が多いとは分かっていても、それでも会いたい桜たち。今日は、浅草の隅田川沿いでお花見をする約束をしていた。
会社近くの、よくランチにお邪魔する料亭。先週、お昼ごはんを食べながら女将さんと話していたとき、 「日曜日のお休みは無いの?浅草にお花見においでよ」 とお誘いを受けた。女将さんは浅草生まれの浅草育ち。そういえば、隅田川沿いでお花見をしたことがないなぁ。もちろん 「行きたいっ!」 と即決。 「おばちゃんのお墓参りも行く?」 と言われ、 「もちろん!」 と答えた。



おばちゃん、とは一昨年亡くなった、女将さんの親戚のおばちゃん。
女将さんがこのお店に出ていない頃は、そのおばちゃんがランチタイムのお店を仕切っていた。私はおばちゃんが大好きで、いつもおばちゃんとお話をしながらお昼ごはんを食べた。私がお邪魔するのはいつも、13時を過ぎた、お昼の混雑がひと段落した時間。私はカウンターに着いて、おばちゃんはカウンターの内側に椅子を持ってきて、コーヒーを飲みながらたくさんお話しをた。ガムシロップの作り方を教えてもらったり、お誕生日にはプレゼントをもらったり、日替わり定食で私が好きなメニューの時は電話をくれたり、本当に優しいおばちゃんだった。
数年前に病気に掛かり、なかなかお店に出てこられなくなったおばちゃん。入院中の外出時間を使ってお店に来た時、一緒のテーブルに着いてお話をしたりもしたなぁ。


おばちゃんが入院したちょうどその頃、私は取引先の会社に常勤することになり、なかなかお店に顔を出すことができなくなった。おばちゃんの病気の状態も分からなかった。
私が自分の会社に戻った時、おばちゃんは亡くなっていた。女将さんにそのことを聞いたとき、カウンターに着いたまま、涙が止まらなかった。女将さんに 「ありがとうね」 と言われたことを覚えているが、それ以外は何も覚えていない。ただただ、驚いて言葉が出なかった。



去年、おばちゃんの一周忌で、お店にご親族が集まる日があった。女将さんが、 「法事のとき、Lちゃんもお店においでよ。おばちゃん、きっと喜ぶから」 と言ってくれたが、ご親族の中に私が入るのは・・・と思い、その日はお花だけ届けて法事の席は遠慮させてもらった。


そしてやっと今日、お墓参りをすることができた。浅草の民家が建ち並ぶ一角に、お寺さんはあった。浅草には、こういうお寺がたくさんあるという。お花を持って行ったのだが、お墓には既にキレイなお花が供えてあった。近所に住むおばちゃんの旦那さんが毎日、お墓参りをしているそうだ。おばちゃん、幸せ者だね。私のお花は女将さんに預けて、仏壇にお供えしてもらうことにするね。
「遅くなってごめんね」 と言いながらお線香を立て、お墓に向かって手を合わせた。おばちゃんの声が聞こえてくるような気がした。 「おばちゃん、お空の上で何をしているのかね」 と言うと、女将さんが 「仲間を集めてお花見してるわよ」 と言って笑った。 「うん、私もそう思う!ドンチャン騒ぎしてるんだろうねぇ」 と言って、またふたりで笑った。


お寺を出ようとした時、ご近所に住むおばちゃんの娘さんが自転車に乗ってやって来た。どうやら、女将さんが連絡していたらしい。初めてお会いする娘さんは、おばちゃんに似て美人さんだった。 「母がお世話になりまして」 と言われ 「いえいえ、私の方がたくさんお世話になったんですよ」 と言った。娘さんにお花を渡すことが出来てよかった。仏壇にお供えするには少し派手だったかもしれないけど、おばちゃんのイメージで、おばちゃんが喜んでくれそうなお花を選んだらこうなっちゃったんだ。写真の桜小町も1本ずつ、入れてもらったんだよ。おばちゃんに、お花見気分を味わって欲しくてさ。


娘さんにお礼を言ってお別れし、女将さんの運転する車でお花見に向かうことにした。車の中で 「おばちゃんが元気だったら、一緒にお花見が出来たのになぁ」 と言うと、女将さんが 「おばちゃん、私たちに付いてきてるわよ、きっと。参加しないワケないじゃない!」 と言った。
そっかぁ、そうだね。さぁ、お酒の大好きなおばちゃん、一緒に飲むよー!