震災から4ヶ月・・・岩手日帰りの旅

大震災以降、11日になると各メディアでは 「震災から●ヶ月」 と報道されるようになった。なかなか現地の現状が報道されなくなってきたものの、11日だけは、その扱いが増す。情報が溢れている社会で、被災地以外の人たちの記憶が薄れていくのは仕方が無い。でも、私はずっと意識していたい。


JR東日本のキャンペーン 「JR東日本パス」 。今日はこれを利用して、岩手県遠野市に日帰り旅をすることにした。相棒は鉄子ちゃん。寄り道、遠回りを愛するふたりの旅。どうなることやら。新幹線内で無事に合流し、岩手へ出発!



日帰りなのに大量の荷物を持っている鉄子ちゃん。大きなリュックの中には、食料がいっぱい。保冷バッグの中には凍らせたペットボトルのドリンク、おやつのお菓子、バスタオル、とにかく細々としたものが詰め込まれている。リュックとは別に、2リットルのペットボトルを丸ごと収納できる巨大水筒を提げている。 「あのさ、岩手にもコンビニあるんだけど・・・」 「知ってますよぉ。でも、いろいろ入れたらこんなになったんですよ」 と。ま、レンタカー移動だからいいか。
10時過ぎ、新花巻駅に到着。眩しいほどの快晴。東京の青空とは、空の色が全く違う。高村光太郎の気分だ。そして、とにかく暑い!レンタカーを借りて、遠野に向かうことになった。レンタカーのお姉さんが 「三日ぐらい前から、この暑さなんですよ」 と言っていた。あー、ここから20分ぐらい走れば、実家なんだけどなぁ。今回は寄る時間がないので、ゴメン!
真っ直ぐ行けば、遠野までは40〜50分。制限時速以下でしか走れない、という鉄子ちゃんが運転すると日帰り旅行にならなそうなので、運転手は私。さぁ、行きますよ。



最初の寄り道は、宮守町にある 「道の駅みやもり」 。私が大好きな道の駅のひとつだ。ひと月前にも来たばかりだもんね。

スーパーや酒屋、産直が一緒になった大きい道の駅。お気に入りは、地元の手作りおやつコーナーと野菜、雑穀のコーナー。花巻や遠野は、小麦やお米、雑穀類が豊富な町だ。
そしてこれは、瓜じゃないよ。ズッキーニ・・・らしい。でっかい!!携帯電話を置いて写真を撮ってみると、こんな感じ。抱っこしてみると、ずっしり重い。これがなんと、100円!!鉄子ちゃんがやたら買えと言うので、買ってしまった。もちろん、鉄子ちゃんも。レジのおばちゃんに 「大きいですね」 と言うと 「いっとぎまにおっきぐなったぁがら普通には売りに出せねぇくてね。味は一緒だよ」 とのこと。 「いっとぎま」 は 「一時の間」 で 「ちょっと」 の意味ね、鉄子ちゃん。

道の駅みやもりの敷地は広い。産直の隣には芝生の広場や川があり、のんびり休めるようになっている。

「あーホント、気持ちイイねぇ」 と、買い込んだ食糧を手に散歩。ほらね、こんな風だから、予定通りにいかないんだよねぇ。そんなことを言いながら、それでもこの空気の魅力に負けてしまう。川まで降りて魚を見たり、風を感じたり。朝はコンクリートに囲まれていたのにね、なんて話したり。

鉄子ちゃんが好きな蒸しパン風の 「がんづき」 、私が好きな米粉とくるみのお菓子 「きりせんしょ」 、薄くてパリパリの板かりんと。写真には無いが、甘い金時豆のお赤飯も食べ、お腹いっぱい!うーん、地元の食べ物って、なんでこんなに美味しいの!

私が、道の駅みやもりが大好きないちばんの理由は、この 「めがね橋」 。道の駅みやもりは、この橋の脇にある。

宮守の 「めがね橋」 は、宮沢賢治が 『銀河鉄道の夜』 を書くきっかけになったと言われている橋だ。
満腹になってダラダラしていると急に、鉄子ちゃんが 「カンカン音がする!電車が来ますよ!!」 と立ち上がった。 「えー!銀河鉄道だぁ!」 と私もカメラを手に立ち上がった。間もなく、車両がめがね橋を通過!あまり本数がない路線なので、橋と車両を一緒に写すことはなかなかできない。なんてラッキーなんだぁ! 
このときばかりは、私も鉄子ちゃんと同じぐらい鉄分が上昇。 「あー、一瞬だけ鉄分増加したよ」 と言うと 「うふふ、知ってますよ。もうバレてますから」 と言われた。鉄子じゃないってばぁ!



道の駅みやもりを出て、国道283号線を引き続き遠野へ向かって走る。遠野の町に入る前には、もうひとつ道の駅がある。大きな白い発電用の風車が目印の 「道の駅 遠野風の丘」 。こちらも同じようにお花や地元の食材、手作りおやつが売っていて、大きなレストランや観光案内コーナーもある。
ここでも粉モノおやつに夢中の私たち。私が大好きな、くるみ餅(くるみもーず)を鉄子ちゃんにおススメ。くるみ餅といっても、くるみの粒々が練りこんであるのではなく、くるみをすり潰して水やお砂糖やお醤油などを加えて延ばしたくるみダレに絡めたお餅。
それをこの風景を見ながら食べた。たまらなく美味しかった。ふたりとも、暑さで汗だくだけどね。うふふ。


やっと、目的の伝承園の駐車場に到着。太陽ジリジリ。車を降りた瞬間、 「あぢぃー!」 と叫んだ私たち。草刈りをした後なのか、緑の香りがいっぱいに広がっていた。 「帰ってきた頃にはきっと、ズッキーニが湯だった状態になっているね」 と笑った。私たちは、伝承園に寄る前に、歩いてカッパ淵に向かうことにした。

座敷わらし、オシラサマ信仰、カッパなど、遠野は伝説の町。 『遠野物語』 を何度も何度も読んだが、この町に来ると、それらは本当にあったことなのだろう、と思わずにはいられない。そういう空気がこの土地にはある。ツアーでワイワイではなく、少人数で静かに歩きたい土地だ。カッパ淵へ向かう道の両脇には、ホップがグングン伸びている。

途中、牛のにおいがすると思ったら、道の脇に牛舎。 「お邪魔しまーす」 と言いながら牛舎に入ると、静かにしていた牛たちが 「ムオォー」 と挨拶してくれた。


カッパ淵は、常堅寺というお寺さんの脇の川にある。
先にご挨拶を、と常堅寺の境内へ。昔からあるお寺さんなのだろう。周りの木々は太く、立派だ。見上げると、夏の空が広がっているが、大きな木々がその日差しから私たちを守ってくれていた。
あー、風が気持ちイイ。

本堂の正面に立ったときに、目に入った小さな看板。 「くつをぬいで下さい カッパより」 。
うふふ。はーい!


キレイな水が流れる川のこの辺りが、カッパ淵と呼ばれている。木々が茂って日差しを遮り、水辺ならではの濃く涼しい風が流れる。薄暗いその場所は、本当にカッパが出てきそうだ。その昔、馬を川に引き込むいたずらを失敗した河童は、お詫びをして許され、母と子の守り神となったそうだ。
カッパ、いないねぇ。そう話していた時、地震が起こった。最初、少しグラグラしていたが、急にガツンと体が落ちるような感じがし、大きくグラグラ揺れた。
怖かった。 「海側に居なくてよかったね」 と話す隣の若いカップルの声に、悲しくなった。この人たちは、そう考えるのか。


カッパ淵に、竹竿に吊るされた大きなキュウリがあった。竿には、 「名人専用につき 触れないで下さい」 の札が。やるなぁ。
地震の時、川を覆う大きな木からボチャっと何かが落ちた。 「木の実でも落ちたかな」 と言いながら水面を見ていると、トグロ状になった蛇がっ!あっという間に細長くなり、スーイスイと川を泳いで行った。

「ヘビが泳ぐのを、初めて見ましたぁ!」 と大興奮の鉄子ちゃん。カッパよりもヘビの方が印象に残ったみたいだ。あらまぁ。



カッパ淵をあとにし、伝承園へ。ここは、遠野農家の昔の暮らしぶりを再現した場所。写真は、国に重文指定された曲がり家。人馬がひとつの家で暮らしていたのが曲がり家で、これは最も古い時期のものだそうだ。実際に中に入ることができる。遠野は養蚕が盛んだった地域なので、養蚕の様子も紹介されており、糸紡ぎの体験もできる。
中に入って、板の間に正座してみた。居間には良い風が通って、涼しい。囲炉裏の脇に座り、おばあちゃんの昔話を聞いた。私は全部分ったが、鉄子ちゃんには分らない方言もあったようだ。最後に付く 「〜だそうだ」 にあたる 「ずもな」 が気に入ったらしく、帰りの車の中でも 「〜ずもな」 を連発していた。


「その昔、農家の娘が飼馬に恋をした。怒った娘の父親が馬を殺したところが、馬と一緒に娘も天に昇り、オシラサマになった。オシラサマは農業の神さま、馬の神さま、あるいは蚕の神さまだとも言われている」


これがオシラサマ伝説。遠野のオシラサマ信仰だ。御蚕神堂(オシラ堂)には、千体のオシラサマが展示されている。木彫りの馬と娘の頭に、願いを書いた布を着せて願掛けをする。
この部屋の濃い空気は独特だ。切ない伝説、人々の想い、いろんなモノが混じって濃度が増している、そんな空気だ。


なんて澄んだ空。曲がり家の屋根越しに見える空も、こんなに光っている。日差しを避けて軒下に立ちながら見上げた空。何も考えずただ、空がキレイだなぁ、と見惚れる時間。贅沢な時間。昔の人も、養蚕作業の合間にこうやって、軒下で休んだりしたのだろうか。



その空にぽっかり浮かんだ、この可愛らしい小さな建物。これがなんとトイレ!屋根の上に草が生え、モヒカンみたいになっているのもまた、可愛らしい。



汗だくの私たちは、伝承園の敷地内にあるお食事処で休憩することにした。そういえば今日はまだ、ちゃんとした食事をしていない。遠野といえばジンギスカン!行きたいお店も決めてあった。
でも、ふたりとも田舎の粉モノおやつを食べ過ぎてお腹が空いていない。そうそう、まだ 「けいらん」 を食べていなかった!ということで、またもや粉モノおやつのけいらんを食べた。けいらんとは、米粉の餡入りだんご。それが、汁の中に入っている。鶏の卵のように見えることから、けいらんと呼ぶらしい。今日は暑いので、冷たいけいらんにした。
うーん、もっちりで美味しい!


こちらは、焼きもち。もち粉の団子の中に、くるみや味噌、黒糖などが入っている。宮古ではこれを焼かずに蒸した 「ひゅうず」 というおやつがある。私が田舎のおやつでいちばん好きなのが、ひゅうず。遠野は焼くんだねぇ。
「中の具が垂れてくるから気を付けてね」 と鉄子ちゃんにアドバイスしながら食べたところ、私の方が下手くそでダラダラに!手までダラダラの私に、鉄子ちゃんは大爆笑! 「宮古のひゅうずは、これほどまで液状にならないんだけどなぁ」 と言う私の口は、タレでもの凄い状態になっていた。食べたものを全て消化してしまうのでは?というほど、ふたりで大笑いしたね。

伝承園を出て他も周ろうとしたが、また帰りに産直に寄り道すると時間が掛かりそうなので、早めに花巻に向けて出発した。遠野の優しい景色を撮りながら。


今日、いちばんお気に入りの写真。
木の柱、小さい傘。懐かしいね、こういう街灯。


畑の緑も、生長中!


梅雨明けを喜ぶような、真っ青な空。澄んだ空気。


人工の青は、自然の青には敵わない。


結局帰りもまた、道の駅や産直でお豆さんや粉モノ、お土産を買い込み、ギリギリで新花巻駅に到着した私たち。
ふたりとも汗びっしょり。その私たちを癒したのは、ホームからのこの景色。また来月、お盆の帰省で寄るからね。


帰りの新幹線。一関からは、世界遺産の平泉観光を終えた人たちが乗り込み、満席になった。こうして岩手に人が集まることも、大事なんだろうな。
背中のリュックと両手いっぱいのお土産を手にした鉄子ちゃん、満面の笑みで先に新幹線を降りた。今日は一日、ありがとうね。