中国の方!?

今日は、会議のために仙台の支店から社員が来ていた。同じ岩手県出身のその同僚と話すときは自然と、岩手の訛になってしまう。彼は久慈市、私は宮古市の出身。同じ海側で近いため、どうしてもそうなってしまうのだ。
仕事を終えてビルを出ようとすると、先に帰ったはずの同僚がエントランスでモゾモゾしていた。
「なぁどしたぁえ? (どうしたの?) 」
「携帯が壊れで、でんつ (電池) のカバーが落ずできて・・・」
「あらー、なぁどすべぇ (どうしよう) 。仙台まで、もだねぇべぇ」
「警備員さんさ、セロハンテープ借りで貼っぺぇがぁ・・・」
そう言うと彼は、入り口の警備員さんが見えるガラス窓を開け、 「セロハンテープを貸してください」 と言った。ここは、標準語で。


警備室の中には、警備員さんと仕事を終えた清掃のおばちゃんが居た。警備員さんは、社員の定時が過ぎるとエントランスには立たず、警備室のガラス窓から外を監視している。清掃のおばちゃんは、警備員さんに用事があったようで、ふたり並んで座っていた。
「なぁどだぁえ?」
「丈夫なセロハンテープだぁすけぇ、良さそうだぁ」
「あらぁ、わぎもいっぺぇ割れでらぁがすか。あだらすぅのぉ、買ったらいがべぇ」
「はぁ壊れでダメだぁども、スマホさすっかどうが、迷ってだぁがぁ」
「使いづれぇずぅ人もいっけぇがす。よぐ調べでから買っとがんえぇ」
「はぁこんなぁテープだらげの携帯だらば、終わりだぁべぇなぁ」


そんなやりとりを聞いていた、清掃のおばちゃん。私たちを見て、 「中国の方?」 と聞いてきた。 「へっ!?」 と顔を見合わせる私たち。何て言われたのか、分からなかった。
するとおばちゃん、「ち ゅ う ご く の か た な の ?」 と、ゆっくり丁寧に聞いてきた。一瞬、顔を見合わせた私たちは次の瞬間、アハハハハハハ!と笑った。
同僚が 「いやいや、ふたりとも田舎が近いので、田舎の言葉になるんですよ」 とおばちゃんに言った。 「あらぁ、何て言ってるか全然分からなかったから、中国から来た方かと思ったわ。アハハハ!」 だって。隣にいた警備員さんが、私たちの田舎を聞いてきた。岩手県の沿岸だと答えると、どうやらうちの田舎に行ったことがあるらしく、浄土ヶ浜の被害状況を聞いてきた。がれきだらけになった浄土ヶ浜の様子を、テレビで見たそうだ。今はがれきも撤去されたので大丈夫、と答えた。


地下鉄の赤坂見附駅で、彼は丸の内線、私は銀座線に乗った。電車に乗ってからも、おばちゃんの 「中国の方?」 が頭から消えず、なんだか岩手の冷麺が食べたくなった。そしてもちろん、食べに行った。



ぴょんぴょん舎 銀座百番」 の冷麺。ときどき無性に食べたくなる冷麺だ。銀座百番はカウンター4席、テーブル6席の、本当に小さいお店。細い路地にあるにも関わらず、いつも行列ができている。今日は夜から急に雨が降ったためか、カウンター席がふたつ、空いていた。ラッキー!
座るなりメニューも見ずに 「冷麺の別辛とビールください」 とお願いした。ここのビールは岩手の地ビール。苦くて美味い!先に出してくれた辛味をつまみにビールをゴクゴク飲む。くわぁーっ、最高!
あとから出てきた透明スープの冷麺に、残った辛味を全て投入。一気に食らう。この麺の歯応え、たまらんねぇ。冷麺、ときどきビール。麺が無くなると、レンゲも使わず器を持ち上げスープを飲み干す。残ったビールで胃袋に終了の合図、そしてお会計。すっかりオッサン。しかも、オッサン オブ オッサンだ。
私より先にカウンターに座っていたご夫婦。私のオッサンぶりが気になるらしく、奥さんの方は何度も私をチラ見していた。はいはい、オッサンっすから。あー、満腹!


さっきまで、銀座松屋の地下で姪っこのために可愛らしいお菓子を選んでいた私はどこへ?
浅野屋さんで、 「カンパーニュ」 と 「軽井沢キャラメルブレッド」 を買っていた私はどこへ?
やっぱり、カンパーニュよりも冷麺とビールの方が似合うんだよなぁ、オッサンだから。。。