三連休・・・長い長い一日目

一年のうちでいちばん仕事が忙しい1〜3月。三連休なんて取ったことがない。取ったことがない、というよりも取ることが許されない。が、今年は仕事の相方の了承を得て、半ば強引に三連休。とある用事があり、どうしても田舎、それも今の実家が引っ越す前の本当の田舎に帰りたかったからだ。



東京から岩手県宮古市までは、直通の深夜バスが走っている。
仕事を終え、その足で品川バスターミナルへ荷物を担いで行き、21時40分に出発。途中、栃木県の佐野インターと岩手県紫波インターで、それぞれ10分間の休憩がある。トイレと体を伸ばすために必ず降りることにしているが、今の実家のある紫波インターでは、この雪景色。写真がブレているのは、夜中の2時に寝起きで急に車外に出たらモーレツに寒くて、ブルブルだったからだね。寝起きに氷点下は厳しい!というより危険!
奥に見える黄色いバスと写真を撮っている建物との間にできている細い道は、運転手さんが長靴で雪を踏みしめ、作ってくれた道。スニーカーの私にとっては、とっても有難い心遣いだ。
このおふたりの運転手さんたちは岩手の方らしく、東京を出発した時、マイクを持って 「えー、皆さん、 『おばんでございます』 」 と車内アナウンスを始めた。うふふ、こういう運転手さんたちだとなんだかホッとする。


7時過ぎ、無事に宮古駅に到着。新聞で見た通り、駅舎がキレイに変身していた。深夜バスのイイところは到着後、フルに一日が使えるところ。さぁ、丸々一日、満喫するぞ!
おばちゃんが、これから仕事に向かう従妹と一緒に車で迎えに来てくれた。 「ねぇ、仕事に行くまでまだ時間があるから、魚菜市場に寄ろうよ」 と誘ってくれ、一緒に魚菜市場へ。わーい、わーい!

大好きな、みりん干し。右がホッケ、左がサンマ。
ちょっと目を離すと焦げてしまう、サンマのみりん干し。でも、これが本当に美味しいんだなぁ。
おばちゃんが 「朝ご飯用に、何かお魚買うべ」 と言うので、迷わずサンマのみりんを買ってもらったよ。楽しみ!


魚菜市場には、魚屋さんやおばあちゃんたちが畳の上に正座して売っている野菜だけでなく、日用雑貨のお店や揚げ物屋さん、お菓子屋さんなど、いろいろなお店が入っている。
こちらのお店では、田舎のご飯やおやつたちがズラリ。
甘いお赤飯、おにぎり、饅頭やおだんご、すっとぎ、ひゅうず等など、これまた大好きなものたちが並ぶ。おばちゃんが 「Lちゃん、すっとぎ好ぎだっけが、買うが?」 と聞いてきた。 「ううん、お正月におばちゃんから送ってもらったのがまだあるから、今日はいいよ」 と答えた。うふふ、うちの冷凍庫にはまだ、すっとぎが入っているんだよねぇ。うふふ。


こちらの魚屋さん、暖簾のようにホタテの貝柱を吊るしている。これだけあると、圧巻だねぇ。お兄ちゃんの大好物だよね。
あ、わかめもいいな。塩わかめなら保存期間が長いもんね。
奥に見えるのは、今が旬のタラだ。お刺身、タラちり、白子ポン酢、いいねぇ。冬って感じがするねぇ。


宮古の冬といえば、毛ガニとタラ!そう、この組み合わせ。


しかし、ぐでーんと横たわるタラの大きいこと、大きいこと。毛ガニと比べると、その大きさが分かるね。 「鮭かよっ!」 って、ツッコミを入れたくなるほど。
いやぁ、でっかい!っつーか、食べたい!


こちらは、知り合いのお店の毛ガニ。この水槽は、ほんの一部。まだまだたくさん並んでいる。
「すぐに食べられる方がいいね」 ということで、茹であがったばかりの毛ガニを3つ購入 (おばちゃんが、ね) 。
亡くなったおじちゃん (おばちゃんの旦那さん) は、私のことをとても可愛がってくれた。冬になるといつも 「おっ、L、遊びに来てだぁのんが。じゃぁ、ガぁニ (毛ガニ) 買いさ行ってくっから待ってろ!」 と言って、ここで毛ガニを買ってきてくれたんだよね。ガニっこを食べる時はいつも、おじちゃんのことを思い出すもんなぁ。

毛ガニやサンマみりん、タラのアラ、お豆腐などを買い、魚菜市場を出た。いやぁ、満喫、満喫! 「Lちゃん、相馬屋のあんぱん、大好きだよね?せっかくだから、相馬屋さんに寄っていこうか」 と従妹。 「お店、すぐそこだったっけ?行きたい!」 と私。

じゃーん!・・・地味な画。いやいや、昔からあるパン屋、相馬屋さんだから、これでいいのだ。いや、これがいいのだ。
給食のような銀色のトレーに並ぶ、コッペパン。いろんな種類があるんだよー!あんぱんは、過去の日記に何度も登場している大好物。どんなあんぱんを食べても、相馬屋さんのあんぱんには敵わない。私のあんぱんのスタンダードは相馬屋さんのあんぱんなのだ。
今日は、あんぱんとクリームパンが大きい袋に詰まったお得パックを購入 (おばちゃんが・・・) 。従妹は職場で食べる朝ご飯用にパンを3つ購入。食べるねぇ。


相馬屋さんといえば、このマーク。このシリーズは、食パンと食パンの間にクリームが塗ってあるシンプルなパン。
今のように色んな菓子パンが売っている時代ではなく、もっともっと何十年も前、この食パンが 「甘いパン」 としてとっても楽しみなパンだった。口の部分は、輪ゴムでグルグルっと留められているんだよね。相馬屋さんの食パンは本当にきめ細かいフワフワ食パンで、ピーナッツクリームが甘くって。あー、頭の中は子供の頃にタイムスリップ。フワフワを邪魔する耳の部分が好きじゃなくて、いつもお母さんが千切ってくれたっけ。食パンの耳が今でも苦手なのは、大人になっていないってコトなのか!?

従妹を職場で降ろし、おばちゃんとふたり、家に帰った。去年の夏以来だね。13歳の猫、ハルちゃんも元気に迎えてくれた。
おばちゃんと朝ご飯を食べ、お茶を飲みながらグダグダとおしゃべりをしながら過ごす。はー、のんびりで贅沢な時間だ。普段は従妹とふたりきりのおばちゃん、話し相手が私に代わったことで、ネタが出るわ出るわ、止まることがない。最近のこと、亡くなったおばあちゃんやおじいちゃん、おじちゃんのこと、津波の時のこと、その後の宮古のこと。そんな話を、笑ったり、涙を浮かべたりしながらいっぱい話した。
「車、好きに使ってイイから、お出掛けしてきたら?」 とおばちゃんに言われ、 「じゃぁ、ちょっと近所まで行ってくるね」 と家を出た。


平日で、遊び相手の友達も仕事。行くあてもなく海を見ながら車を走らせていると、自分が育った町のあたりに着いていた。すっかり変わってしまったんだ。

進まない、がれき処理
このがれきの下には、遠足のときにみんなでお弁当を食べた原っぱがあったね。右手のがれきの下には野球場。市の陸上大会や野球大会の応援で、何度も来た運動公園。とても広い運動公園が、全く違って見える。
海が全て押し流した人々の生活は、今ここにごっちゃになり、なんの役割りも持たずに積まれている。がれきのすぐ先には、いつもと変わらない静かな海。見上げれば青い空。海と空は変わらないのに、間にあるはずの普通の生活は、すっかり変わってしまった。

運動公園から車で数分、ずっと寄りたいけど寄らずに避けていた、近所の海を見に行くことにした。テレビやネットでは何度も見ていたが、どうしても見ることができなかった海だ。
堤防の前には、コンビニが出来ていた。お店で温かい缶コーヒーを買い、車を置いて、海に向かった。冷たい突風の中、海に向かう人なんて誰もいなかった。私が住んでいた頃はなかったが、ここには温泉施設があったんだよね。今は何もないけれど。

堤防は、どこもかしこもこんな状態。
右奥に見える階段、私が子供の頃はもっと幅が狭く、こんな立派な階段じゃなかったな。曲がった手摺りが、剥がされたコンクリートが、津波の恐ろしさを伝えている。


冷たい海風が内臓まで凍らせるような、そんな感じがする。


歪んでしまった、この道。ずっとずっと海に沿って続く、長い道。
堤防の真ん中にあるこの道を何度、友達たちと走ったことか。アサリ採りのバケツとカッチャ (熊手の小さいヤツ) を持って、
海水浴の浮き輪を腰に着けたままビーチサンダルをはいて、白鳥のために買ったパンの耳を袋いっぱいに詰めて。
コンクリートのつなぎ目から顔を出す緑の中には、夏になるとぐんぐん伸びるものもあって、それを見るだけで笑ったりしたよね。自転車でこの道を走ると、ものすごく気持ちがいいんだよね。今の私は、脳ミソがフル回転だ。


堤防を越えて海の前に立った。海風が一層、強く感じられる。あー、この景色だ。風があるため、海面が細かく波立っているが、いつも通りの静かな湾だ。風がなければ、本当に鏡のように静かな海だもんね。 「海のまわりの長い道 海苔の匂いよ 牡蠣の棚」 で始まる小学校の校歌が、ふと頭の中に流れた。歌詞の中に 「宮古の湾は静かだな」 ってあるからだね。浜の漁師さんたちの牡蠣小屋が並んでいたのは、この浜の少し先だったな。
左に行くと外海、右に行くと津軽石川。冬に鮭が帰ってくると、この海面にすすーっとキレイな矢印が延びるんだよね。鮭は帰って来ているのかなぁ。


海を後にし、堤防の階段を下りた。下り切ったところで思わず 「あっ!」 と声が出た。新しくなった上半分の白いコンクリートとは明らかに違う、古い模様のコンクリート。あー、コレだ!私たちのコレだ!ここだけは変わっていない。
階段があっても使わず、コンクリート面をズリズリ滑りながら楽しく上り下りするのが、子供ってモンだ。上りは何とかなるけれど、下りは怖かったなぁ。それでもこの四角い模様を上手く使い、年上のコたちに負けじと、走り下りたっけ。昔を思い出して少し上ってみた。
スニーカーが滑って転びそうになったけれど、顔は笑っていた。


この、小さな青い水門も思い出の場所。コンクリートに囲まれた海水の溜まったこの場所が何のためにあるのか、昔も今も分からない。ただ、昔はもっともっと小さく、囲んでいるのもこんな立派なコンクリートではなく、ゴツゴツした歪なコンクリートだった。
この中には魚も入ってくるため、お兄ちゃんたちのハゼ釣りの場所だった。確か、帽子のようになっている青い部分の中に、水門を開けたり閉めたりするレバーみたいなものがあるんだよね。油まみれの歯車が見えて。そこを触ろうとすると、大人の人たちに怒られるんだよね。水門の辺りを覗くと海に吸い込まれて行きそうで、怖かったなぁ。


また海に戻り、冷めた缶コーヒーを飲みながら、海風の中を散歩した。寒かった。コンビニの駐車場に戻った時にはもう、手の感覚が無くなっていた。運転席に座ってジンジンする手が温かくなるのを待ちながら、ぽやぁんとしていた。もう、帰ろうかな。そう思って車を走らせたところで思った。 「そうだ、小学校に寄ってみよう」 。

校庭をぐるっと囲む桜の木々、同じく校庭を囲む花壇、逆上がりが出来なくて何度も練習をした鉄棒、そして校庭から見える海。
あー、そのままだ。
この桜の木は、ん十年前の私の六年間を知っているんだね。ただいま。


音楽の授業中なのだろうか、校舎からは木琴の音が聞こえる。


校舎や体育館は改築され、立派なっていた。今はプールもあるらしい。私たちの頃のように、体育の時間に海へ行って泳ぐことはないんだね。あ、裏山はそのままだ!今でも、巨大なウシガエル出てきたりするのかなぁ。
2011年のとある記事によると、児童数は80人。私たちの頃は、200人弱だったよね。もちろん、1学年ひとクラス。中学校は近隣の小学校3校が一緒になるのだが、私たちはいちばん小さな学校だったので、よくバカにされた。あの頃はそれが嫌で嫌でたまらなかったけれど、この環境で6年間も過ごしたなんて、本当に贅沢だ。
大人になってから分かること。大人にならないと気付かないこと。


家に帰り、おばちゃんとお昼ご飯を食べた。 「寒がったぁべ。風呂さ入れば?」 と言われ 「んだね。あ、それなら新里の 『湯ったり館』 さ行って、一緒におっきな風呂さ入っぺ」 「よし、行ぐがっ!」 ということで、おばちゃんを助手席に乗せ、旧新里村にあるお風呂に行った。途中、ものすごく吹雪いて軽自動車では飛ばされそうだったが、何とか到着。目の前の閉伊川を眺めながら、 「気持ちいいねぇ」 と何度、言ったことか。
ここは震災後、自衛隊の車がずらーっと並び、宿泊所として使われていた施設。盛岡から宮古に向かう途中、向かいの道路から見たあの光景は、今でもはっきり覚えている。この先にある宮古の惨状を、その自衛隊車両の数が思わせたことを。


途中、寄り道をして家に帰ったのは夕方。
この日の夜は、従妹とご飯を食べに行く約束をしていた。おばちゃんも誘ったが、明日の同級会の準備があるから、と遠慮したので、ひとりで従妹の職場まで迎えに行った。街なかにある駐車場に車を止め、魚が美味しい居酒屋 『半酔』 さんへ向かった。うーっ、風が強くて、さんびぃーっ!


「Lちゃんに、魚ぁいっぺぇ食べでもらいたくて」 と従妹。なんて、めんこいコなんだ!
そして、従妹もこのあいだ品切れで食べられなかったという、どんこのたたき。どんこは、もの凄く不細工だけれど、もの凄く美味しい魚。鍋にして食べることが多いが、新鮮だからこそ!の、肝たたき。どんこの肝と身とをあえたお刺身で、これがもう絶品!
「うんめぇー!!!」 と大きな声で言ってしまい、お店の女将さんとおっちゃんが大笑い。全く臭みの無いさっぱりした身に、程好くこってりした肝のやわらかい風味。しっかりとした歯応えで、たまらん!宮古の冬はコレだね。


今が旬の、タラの白子。もちろん、そのままポン酢で食べても美味しいが、こちらは天ぷらで。
何て言ったらいいのかなぁ、この美味しさ。表現する言葉が見付らない。 「まぁ、いいがら食べでみで!」 とおススメしたいんだなぁ。美味さがギュッと詰まっていて、口の中でふわーっと広がるんだよね。
あー、幸せ。


こちらは、うちのお父さんの大好物、セイダガレイ。もちろん、私も大好き!我が家ではみんな大好き!正式にはサメガレイと言うらしいが、きっと見た目の肌のザラザラ感からそう呼ばれるんだろうな。脂分が多いので好き嫌いがあるだろうが、冬の宮古ではコレを食べないと!ね。
セイダガレイは、たっぷりの油で、半ば揚げるように焼くのが美味しい。皮がカリッと美味しく食べられるからだ。カウンターの向こうから女将さんが 「皮も食べでねー」 と声を掛けてきた。もちろん!とひと口パクッ。あまりの美味しさに、 「うんめぇー!」 と長椅子にバタッと倒れた。またもや、女将さんとおっちゃんが大笑い。体で表現するしかねぇぐれぇ、うんめがったんだぁもの。


たくさん食べて飲んだのに話が尽きず、二件目の 『浜ゆう』 さんへ移動。こちらも、お魚が美味しいお店だ。
さっきも食べたのに、 「味くらべ」 と称して、どんこのたたきを注文。ほらほら、飾り用だから小さいけど、これがどんこの顔。不細工だねぇ。でもやっぱり、美味しいねぇ。


明日も仕事の従妹はノンアルコールビール、私はジョッキで生ビールを飲み、お互いの近況をいっぱい話した。美味しい魚料理を次々と口に放り込み、それを消化するかのようにたくさん話し、たくさん笑った。
10歳下の従妹は、兄も姉も結婚して遠くに住むなか、宮古に戻ってお母さんとふたりで暮らしている。ひとりだけ歳が離れているのでみんなに可愛がられ、とても素直に育った本当にめんこいコだ。震災の時は、大変だっただろうに一度も弱音を吐かず、毎日毎日、支援してくれる人たちへ感謝していたもんね。
いろいろあるみたいだけど、私たち親族のアイドルだもの、幸せになって欲しいなぁ。あー、いい夜だった。ありがとうね。


朝から晩まで、フル稼働の一日。あー、頭も心もお腹もいっぱいだ。明日も寒いのかな。従妹と布団を並べて、おやすみなさい。