タクシーにて


骨折以来、通勤の一部区間でタクシーを使っている。足の痛みはそれほど感じないが、ヘルニアの方がどうにも治まってくれない。電車の乗り換え時に 「今日は大丈夫かな」 と思うのだが、足腰がビリビリで 「無理だよー!」 とご丁寧に返事をしてくれる。


よく利用する新橋駅と東京駅のタクシー乗り場には、普通の乗り場と優良タクシー乗り場がある。優良タクシー乗り場とは 『過去3年間無事故無違反であり、10年間利用者からの苦情を受けていない優良な乗務員のみが並ぶ事ができるタクシー乗り場』 だそうだ。どうせ乗るなら、気持ちよく乗りたいもんね。
タクシーの運転手さんは様々。目的地まで無言の人、逆にいろいろと話し掛けてくる人、ラジオを流している人、敬語を使う人、タメ口の人など等。運転手さんの方もお客さんを見て対応するのだろうが、私はオシャベリに見えるのか、よく話し掛けられる。


■丁寧な運転手さん
その運転手さんは、私よりもずっとずっと年上の、髪の毛が真っ白な方。目的地を告げると、現在地からの道のりを全て確認し、 「宜しいでしょうか」 と聞いてきた。丁寧な人だなぁ、と思った。
会話は全てです・ます調。会話の中に鹿島建設が出てきたところで 「あの読み方は 『カジマ』 なんでしょうか、 『カシマ』 なんでしょうか」 と聞いてきた。 「カジマ、ですね」 と言うと 「そうですかぁ、勉強になりました」 と運転手さん。なんて丁寧な方なんだ!ここから 「ナカシマ」 さんか 「ナカジマ」 さんか、など漢字の読み方についての話題になり、目的地まで楽しく会話をさせてもらった。
降りる時、 「お話相手をしてくださって、ありがとうございました。いろいろ勉強になりました」 と仰った運転手さんに、頭が下がる思いだった。


■憂う運転手さん
ある日の仕事帰りに乗ったのは、50代ぐらいの運転手さんのタクシー。話の流れは忘れたが、今の若い人たちは同僚と飲みに行くことがなくなった、という話題になったときのこと。今の若者は家でパソコンばかりいじっていて、そんなんじゃ、人付き合いがおっくうになるのも当たり前だ、と運転手さん。
ご自身の息子さんもパソコンや携帯電話ばかりいじっている、と嘆く。上司や同僚と飲むことで、社会のルールや年上の人との付き合い方など、学ぶことがたくさんあるんだよ、と仰っていた。
確かにそうだねぇ。仕事帰りに 「ちょっと寄ってくか?」 なんて誘う人、少なくなったもんねぇ。 「誘う方も、断られたら嫌だもんなぁ」 と言う運転手さん、苦い経験があるのかな。


■本が好きな運転手さん
この運転手さんも、仕事帰りの夜に乗った運転手さん。
映画や本の話題になった時だったかなぁ、 「最近の本は、読んでいても全く面白くない」 と仰った。未来のことや空想の世界ばかりで、読みながら、その情景を頭に思い描いて夢中になれる、そんな面白さがない、という。
昔の小説はさぁ、ちょっとした光の具合とかその影の濃度、着物の細かい模様や小さなシワ、実際にある景色なんかが細かく表現されていて、それをひとつひとつ自分で想像して画にしながら読むから面白かったんだよ。旅先で、 「あ、この場所はあの小説のあの場面に出てきたところだ!」 なんて思ったりしてね。
運転手さんは、私の相づちが聞こえているのかいないのか、そんなことをずっと語っていた。面白かったなぁ、この運転手さんの話。小津安二郎の世界だね。もっと、お話ししたかったなぁ。



まだまだいろんな運転手さんがいたが、それはまた次に取っておこうっと。それよりも、早く足腰を治してタクシー生活から抜け出さないと、本当にタクシー破産しちゃうぞ!